こんにちは。
弱小文化財応援ブログ「おらがまち」まちこです。
神社に祀られている神様は、記紀神話(古事記・日本書紀)の世界の神様だけではありません。
生まれ持っての神様もいれば、死後神様になった人間もいます。
今回は「神様になった人間」について。
北野天満宮で知られる「菅原道真」は、実は云々。
日本で一番怖い神様って誰。
人間が神様になるには理由がある。
などなど。
それでは早速!
怨霊菅原道真は特に有名
実在の人物で、神社に祀られていて、特に有名なのは「菅原道真(すがわらのみちざね)」です。
ご存知北野天満宮の学問の神様。
そして、菅原道真は記紀神話に登場する神様ではありません。
もとは人間でした。
では、なぜ神様になったのか。
そこには色々な事情があります。
神様のような、いわゆる「神力(しんりき)」的超能力を持っていたんでしょうか。
いやいや、彼にはそんな超能力のような力はありませんでした。
では「菅原道真」とはどんな人物だったのか、そのあたりからひも解いて行ってみましょう!
どんな人だったのか
平安時代の学者
菅原道真は平安時代中期の学者で、政治家。
代々学者の家に生まれた学問の超エリートです。
平安時代に政治を仕切っていた一族といえば「藤原氏」を思い浮かべますが、その藤原一色の中に菅原道真は政治家として成功していきます。
どうやって力をつけていったのでしょう。
当時藤原氏の権力は絶大で、貴族たちはその顔色をうかがいながら生きていました。
それは天皇も同じこと。
しかし、いつの世でもそういう人と対立する人間が現れるもので、「藤原氏嫌い」の天皇が登場します。
それが菅原道真を大抜擢した「宇多天皇(うだてんのう)」。
菅原道真はこの宇多天皇の時代に藤原氏へ一石投じる手段として、大活躍します。
有力貴族(特に藤原氏)の優遇をやめたり、農民のためになることをしよう!と率先して政治活動を行っています。
が
やっぱりこれが気に入らないのが藤原氏。
宇多天皇の代が終わり次の代の後醍醐天皇の代になると、藤原氏が菅原道真失脚に動き出します。
この時の藤原氏の長であった「藤原時平(ふじわらのときひら)」の謀反の密告からはじまり、あれよあれよという間に大宰府に左遷されてしまいます。
東風吹かば 匂ひをこせよ 梅の花 主なしとて 春な忘れそ
(こちふかば においおこせよ うめのはな あるじなしとて はるなわすれそ)
という和歌はあまりにも有名ですが、これはその左遷先の大宰府で読まれたもの。
神紋が「梅」なのは、この和歌の梅にちなんだもの。
京都にあった自宅から、梅が主恋しさに飛んできたという伝説です。
大宰府では幽閉されたも同じ生活で、雨漏りする家に住まわされ、暖をとるのもままならずそのへんに転がっている石を焼いて凌いでいたそうです。
食事もろくになく脚気や皮膚病に苦しみたいそう苦しい生活をしています。
こうして道真は大宰府で失意のまま死んでしまうのでした。
あんなに頑張ったのに、あわれです。
怨霊と化した時期
死後、はいこれで終わり。
と、ならなかったのが、歴史の面白い所。
死後、道真は怨霊となって自分を罠にはめた人たちを呪い始めます。
まず天変地異!
手始めに左遷の陰謀の片棒を担いだ人物(藤原菅根)、そしてでっち上げ張本人の藤原時平を呪い殺しました。
さらに言い訳すら聞いてくれなかった醍醐天皇の皇子とその子。
干ばつを起こし、雨乞いを相談中に天皇の住まい(清涼殿)に落雷。
これにより藤原氏の人物が死去します。
そうこうしてるうちに醍醐天皇も亡くなってしまいました。
などなど。
すごいぞ、道真。
と、わたしたち現代人からみると偶然以外の何ものでもないのですが、当時の人たちは違いました。
これらは全て道真が無念の死を悔しがり、朝廷の人物たちを呪っているのだ!
と、考えました。
死んでる人間の位を回復したり、もっと上の大臣に昇格したりと色々やるのですが、全く効果がありません。
困った都の人たちはついに道真を神として祀り、北野天満宮を創建します。
こうして菅原道真を神として信仰して行く「天神信仰」が出来上がりました。
学問の神様として信仰されていく
神様歴は人物神なので短いのは当たり前ですが、平安時代末期から鎌倉時代にかけて「学問の神」としての信仰が始まります。
最初は怨霊だったのでえらい違いです。
もともと大変頭がいいというのは知られていましたので、ここが信仰のポイント。
一般の人たちが「天神様」と親しむようになったのは、江戸時代に寺子屋が普及し始めたころといわれています。
寺子屋には天神様の像があったんだとか。
そして現在受験生に絶大な人気を誇る天神様へ。
昔の人たちにとっては、不幸が続く事にはなにが意味があることでした。
きっと悪さをしているものがいるに違いないと考え、さらにもう悪さをしないでください、という形を現します。
それが、この菅原道真をはじめとして人物神への信仰となっていきました。
人物神とは
ポイントは非業の死
無念の死をとげ、死後祟りを起こす死者のことを「御霊(ごりょう)」といいます。
この御霊に対する信仰は「御霊信仰(ごりょうしんこう)」といわれ、奈良時代から
ありましたが平安時代に最盛期を迎えます。
こうした人に対して、わたしたちは哀れに思ったり興味をもったり恐怖したり。
それはこの「御霊信仰」が根本にあるからです。
最近は靖国神社に参拝するしないで、毎夏ニュースになりますが、靖国神社の何が問題なのかというのはココ。
靖国神社には何が祀られているかというと、幕末から太平洋戦争までの「英霊」。
つまり戦争なんかで死んだ人たちです。
日本人の感覚では死者を神として祀るのは怨霊となって世を乱さないでねっていう信仰なのですが、海外から見ると戦争をやった犯罪者を神として祀っているけしからんこと、ってなるわけです。
これはちゃんと外国向けにちゃんと説明してあげたいのですが、日本のこうした歴史や信仰を知らないと、理解できない部分。
わたしたち日本人だって、靖国神社の何がいけないのかってわかってことたくさんありますよね。
日本の文化を理解するにはまず歴史からってなると大変なことこの上ないです。
日本史上最強の怨霊
歌川国芳:讃岐院眷属をして為朝をすくふ図
日本史上もっとも畏れられた怨霊が一人います。
「崇徳上皇(すとくじょうこう)」。
「崇徳院(すとくいん)」ともいわれる天皇の一人。
あまり聞きなれない人物ですが、この人めっちゃ怖い神様として明治天皇も恐れていました。
あの平将門より、菅原道真よりもすごい怨霊といわれます。
平安時代末期の天皇ですが、幼いころに天皇になって以来実権のない天皇生活を送った挙句、世間を混乱させたとして讃岐(現:香川)に流刑になってこの地で死亡。
死に際も壮絶で、自分の噛み切った舌から流れる血で写経を行い、「日本呪ってやる!天皇家も呪ってやる!」といって憤死(怒りながら死ぬこと)していったそうです。
「雨月物語」「椿説弓張月」などの江戸時代の書物の影響が強く出ている逸話のようですが、怨霊のモデルとしてよく登場します。
天皇も神様
ちなみに天皇も神様の一人です。
こちらは生きている「現人神(あらひとがみ)」。
昔から「錦の御旗」といわれるぐらい、その権威はすさまじいもの。
天皇の一言で歴史が動く事もザラ。
その決定的な事実が「今でも天皇家があること」。
どういうことかというと、昔から今に至るまで天皇家をつぶそうとした人間はいないんです。
※取って代わろうとしてもいつもうまくいかない。
時の権力者たち、藤原氏や平氏・源氏、北条氏、足利氏、織田信長などの戦国時代の人たち、徳川家、どの時代にもいえるのですが、天皇に取って代わろうとした人間はいません。
日本の国家的実権を握っても、天皇という権威を奪おうとしたことはありません。
他の国だと、「俺が王になるぞ~!」と先の王朝を壊して自分が王となることが普通ですが、日本ではこれが起きることがありませんでした。
面白いですよね。
これは天皇をなくしてしまうとなにか恐ろしいことに合うんじゃないかとずっと考えられてきたから。
「怨霊信仰」とはちょっと違いますが、これもそれに近いものです。
歴史上有名な崇徳上皇の件もありましたし、恐れられていたのには違いありません。
「象徴天皇」とはいわれますが、今でも天皇が各地被災地などに行ったりすると総理大臣が行くより歓迎されますよね。
戦争の場所を訪れたりするのは「御魂鎮め」の意味もあるとされ、戦死者の家族は海外にもどんどん行ってほしいと願うのはこのためだとも言われています。
この天皇に対する考えは現在いろいろなものがありますが、今も昔も「神」と同義として、無意識にわたしたち日本人の中にあるようです。
怨霊から神様へ~まとめ~
生身の人間が神様になるというと、すごい力を持っていたとかって思われがちですが、
日本における人物神は生きている人間に祟りを起こすとされ、畏れられ祀られるパターンがほとんです。
もちろん根本には、菅原道真のように学問にすごく長けていたとか何かしらの特別な能力がありました。
天満宮にいったときには、菅原道真は怨霊になった人なのかぁ大変な思いしたんだろうな、なんて思ってあげると、それもまた怨霊を鎮める信仰にもなります。
日本全国には人物神がたくさん。
ちょっと地元の神社に神様の名前らしからぬ人がいたら、その人も地元では怨霊として名を馳せた人物人かもしれません。
メジャーなものから、地方ネタのものまで。
これらの人物神だけを巡って神社巡りするというのも面白いですよ!
以上、「おらがまち」まちこでした。
< 参考文献・サイト >
- ・日本の神々の事典―神道祭祀と八百万の神々 (New sight mook―Books esoterica)
- ・「日本の神様」がよくわかる本
- ・この一冊で日本の神々がわかる!